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2006年10月31日 (火)

「父親たちの星条旗」感想

【映画感想(劇場)】

「父親たちの星条旗」
(06年10月28日 梅田ブルク7・シアター1)
(監督)クリント・イーストウッド (出演)ライアン・フィリップ ジェシー・ブラッドフォード アダム・ビーチ ジェイミー・ベル


 クリント・イーストウッド監督の「父親たちの星条旗」を観ました。

うーむ・・・イーストウッドらしい味わいが満載されていて、特にラスト近くは彼らしい淡々とした描写の中にも、深い感動を味あわせてくれるのですが、映画全体でみると、どうもまとまりに欠けるような気がします。

観る前から、かなり期待していただけに、その期待にあと一歩及ばず、と言った感じでした。

 そう感じた最大の理由は、この映画の構成にあります。

この映画では、硫黄島の激戦のシーンと、英雄となった3人が帰国後にキャンペーンに駆り出される姿を描くシーンが冒頭からラストまで、交互に描かれる演出が取られています。

これは、原作を読んでいない観客には、非常に分かりにくい演出であったのではないかな?と思いました。

僕は、映画を観る前に原作の「硫黄島の星条旗」(ジェイムズ・ブラッドリー、ロン・パワーズ(著))を読んでいました。
そのため、この分厚い原作をどうやって2時間強の上映時間にまとめるんだろうか?とか、もし原作どおりの流れで描くのなら、中盤に戦闘シーンがあって後半は帰国後の物語だから、どうしても後半がドラマ中心になって退屈になるかな?とか考えていたのです。

それが、映画を観始めると先に書いたように、戦場と帰国後を交互に描く演出であったため「あ、こういった手法を取ったのか・・・」と感じたわけです。

この映画、タイトルにもあるように、硫黄島の激戦の地で星条旗を立てた写真、史上もっとも美しい戦場写真と言われたこの写真に映っていた6人の兵士のうち、生き残った3人が帰国させられて、アメリカの国債キャンペーンに使われる姿を描いた物語です。

それだけに、主人公となる3人がなぜに戦場から帰国させられたのか?彼らが何をさせられたのか?ってのは、やはりある程度順番を追って描かないと、知らない人には判りづらいのではないかな?と感じました。

特に前半、硫黄島への上陸シーンで凄まじい戦闘シーンが繰り広げられるのですが、それが途中でいきなり終わり、3人がアメリカに帰国するドラマ展開になっていた(この時点では、まだ例の星条旗が掲げられるシーンは映画の中では描かれていません)ので、観ている観客は「あれ?」と思った事でしょう。「なぜ、彼らは帰国したのか?」と。

アメリカでなら、もしかしたらこの写真が一般常識として知られいたかも知れませんから、この描き方でも良かったのでしょうが、その背景をあまり知らない人が多い(と思われる)日本では、ちょっと分かりにくさが増しただけではないかな?と思いました。

その後、映画を最後まで観ていくと、例の旗が掲げられるシーンが印象的に描かれているので、大体の状況は把握できるのですが、それでも前半の状況の掴めにくさってのはマイナスに感じてしまいました。

 もう一方で、激しい戦闘シーンの描かれ方ってのが、この作品の見所の一つだったのですが、それもやはり、戦闘シーンと帰国後のシーンが交互に現れるため、どうしても細切れになってしまって、戦闘シーンに意識を集中する事が難しかった気がします。

総じて、膨大な原作を非常に上手くまとめている脚本だと思いますが、戦場と帰国後を交互に描く演出は芸術的ではありましたが、硫黄島の地獄のような戦場を描く事、そしてその戦場を目の当たりにしたからこそ「われわれは英雄ではない。本当の英雄は硫黄島で死んでいった海兵隊員たちだ」とのセリフを際立たせるには、時系列どおりに描いた方が良かった気もします。

 さて、激しい戦闘シーンの描写ですが、これはもう、やはりスティーヴン・スピルバーグの「プライベート・ライアン」(SAVING PRIVATE RYAN:1998)を彷彿とさせる部分が多かったです。

逆に言えば、あの名作の上陸シーンと重なるイメージが多かったので、目新しさが無かった感じもしますが、それでも、コルセアなどの飛行機からの視点で、擂鉢山を攻撃する映像などは大画面で観ると非常に興奮させられましたし、大規模な戦場の全体像を上手く把握していたと思います。

ただ、原作を読んだ者としては、原作が描く雨あられと銃弾が飛び交う浜辺の惨状・・・弾を避けて進むのは雨の中で雨粒に当たらずに進むようなもの・・・との描写を読んでいるだけに、そのイメージには映画の描写は及ばなかったように感じました。
確かに激しい銃撃・砲撃でしたが、「プライベート・ライアン」の方が「銃弾が飛び交う」感覚が上手く描かれていました。特に、耳元を弾が飛び交う感覚でしょうか。

ドラマ的には、原作で強調されていた「海兵隊員は仲間を見捨てない」って精神の部分、これも、映画では原作ほどには強く感じられにくかった点です。
やはりこの点は、思った以上に戦場シーンが短かったって点が最大の理由のような気がします。

 全体的に特撮が多かったのですが、これはまあ、仕方がないかな・・・と思います。
あれだけ大規模な艦砲射撃と上陸作戦であれば、それを実写で描くのは不可能でしょうし、擂鉢山の全景も、実際に硫黄島で全てを撮影出来るわけではないので、それがCGなのも仕方がないと思います。

また、そのCGにしても、非常に出来が良かったので、スケール感がスクリーン一杯に表現されていたと思います。

 さて、肝心のドラマに関してですが、やはり、これだけ大規模な作戦であり、数多くの兵士が戦場を行き来するだけに、「誰が誰かわからない」ってのが正直な感想でしょうか(^_^;)

帰国後、キャンペーンに使われた3人、これは風貌もキャラもはっきりしていたので分かりやすかったのですが、その3人にしても、戦場ではヘルメットを被って他の兵士たちと区別がつきにくい感じがしました。
特に、原作者の父親である「ドク」の姿が、戦場では分かりにくかった気がします。

その一方で、「プライベート・ライアン」にも狙撃兵として一番魅力的なキャラを演じていたバリー・ペッパーが、戦場のシーンでは非常に印象に残る姿で登場していました。
こういったキャラが戦場のシーンでも数多く出てきて欲しかったし、それを描くためには、やはり時系列どおりのドラマ展開にして、戦場シーンをもっと長く撮った方が良かったのではないかな?と感じた次第です。

 そんな中、帰国後のドラマでは、やはりアダム・ビーチ演じるインディアンのアイラ・ヘイズの物語が一番印象深く残っています。

彼が酒に溺れた理由はさまざまあるでしょうが、映画的には、戦場での凄まじい体験があった為、そしてたまたま2番目の星条旗掲揚に出くわしただけで英雄扱いされた為、自分たちよりも本当に英雄と呼べるのは、戦場で死んでいった仲間たちだ・・・と忸怩たる想いがずっと彼に付きまとっていたのだろうと思います。

あまりに海兵隊員らしからぬ姿に、彼は半ば強制的に戦場へ送り返されてしまうのですが、その前、ホテルの一室で泣きながら語る姿は非常に印象的でした。
また、戦争終了後、彼が死んでいった仲間の父親に会いに行く姿や、そしてその最後の姿など、本当はドクが視点の中心であるはずの作品が、アイラ・ヘイズ中心の物語に観えました。

ま、このあたりもドラマの視点が定まりにくい要素ではありました。
つまり、原作者のジェームズ・ブラッドリーが、父親であるジョン・”ドク”・ブラッドリーの姿を、戦友らのインタビューから追い求めていくのですが、その中心軸に対して、どうしても父親の姿が物語の中心に見えてこない点があります。

ま、6人の兵士全てが中心であったので、それはそれで良いのでしょうが、映画的にどこかに視点を絞るのなら、父親が黙して語らなかった戦場の姿、そしてなぜ父親がそれを敢えてだれにも語ろうとしなかったのか?を、中心に描いて欲しかった気がします。

映画的にも、そこかしこで息子がインタビューする姿も入れながら、しかしドラマ的にその点を冒頭から強調せずに、後半に入ってやっと中心に語り始めた点も、腑に落ちませんでした。

ラスト近くになって、やっと息子が父親の死と直面し、なぜ父親が生きているうちは硫黄島の事を語ろうとしなかったのか?って点、それを知りたい為にインタビューの旅に出て行った姿がはっきりと描かれていくのですが、前半では、それが中心軸として存在する事が非常に分かりにくかった気がします。

しかし、それらマイナス点を補ってあまりあるのが、やはりイーストウッド節といいますか、彼自身が音楽を担当してるのですが、淡々と流れる音楽に載せてアイラ・ヘイズの姿を描いている点と、戦場の合間に見せた奇跡的な平穏な海水浴シーンのラストでしょう。

また、映画のタイトルとなっている星条旗掲揚のシーンですが、これも鳥肌が立つくらい、淡々とした普通の空間を、それを淡々と描くが故に芸術的な「瞬間」を切り取る事に成功していたと思います。

 あと、補足を幾つか。

戦場のシーンで、「ターミネーター2」(TERMINATOR 2: JUDGMENT DAY:1991)のロバート・パトリックがかなり風格のある軍人を演じていたのが印象に残っています。

また、「ウォリアーズ」(THE WARRIORS:1979)「48時間」(48 HRS.:1982)「コマンドー」(COMMANDO:1985)などで、かん高い声の印象的な脇役を演じていたデヴィッド・パトリック・ケリーがトルーマン大統領を演じていたのも、彼が若い印象が残っているだけに時間がたったなぁと、妙に感じ入ってしまいました(^_^;)

 この映画のエンド・クレジットのあとに、日本側の視点で撮影された渡辺謙主演の「硫黄島からの手紙」の新作予告編が流れます。
これまで観た予告編とは違った映像が数多く出ており、これだけで「観たい!」って気にさせる非常に魅力的な内容になっていました。

個人的に、今回のアメリカ側からの視点で撮影された「父親たちの星条旗」が、演出手法の点で引っかかりを感じて「まあまあ」の出来程度に感じられ、期待が大きかっただけに物足りなさを強く感じてしまったのに対し、次の「硫黄島からの手紙」の方が、ストレートにドラマにハマる事が出来るのではないかな?と感じて、今から期待している次第です。


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