「おくりびと」感想(劇場)
「おくりびと」感想(劇場)
(08年10月09日 梅田ブルク7・シアター1)
(監督)滝田洋二郎
(出演)本木雅弘 広末涼子 山崎努 余貴美子 吉行和子 笹野高史 杉本哲太 峰岸徹
面白度 :10点/10点
お薦め度:10点/10点
本木雅弘主演、滝田洋二郎監督の「おくりびと」を観てきました。
いやぁ、素晴らしかったですね。
ドラマの完成度の高さと役者の演技の素晴らしさを考えると、本年度の邦画ナンバー1と言っても過言では無いでしょう。
もともと、それほど興味はありませんでしたが、ニュースで「モントリオール世界映画祭グランプリ受賞」ってやっていたのを観て、俄然、観たくなった作品です。
予告などを観る限りでは、非常にシリアスで凛とした静かな映画を想像していたのですが・・・
実際に観てみると、冒頭からユーモアがタップリで、予想以上に笑わせてくれるシーンが多くって驚かされました。
その後、中盤からは次第に泣かせるシーンも多くなり、後半では胸が一杯になるような泣けるシーンも多くあり、劇場のあちこちから鼻をすする音が聞こえたほどです。
かくいう僕も、そのユーモア感覚の素晴らしさにニンマリと笑いつつ、後半のいくつかの葬儀のシーンでは涙が溢れてしまいました。
主演の本木雅弘の筋が通った演技、立ち居振る舞いの姿勢の素晴らしさ、そして共演の山崎努の飄々としたユーモア感覚と存在感、この二人の見事な演技を観ているだけでも満足な作品でした。
そのドラマと演出と演技が三位一体となり、全体では非常に素晴らしい作品となっていました。
今年僕が観た邦画の中では、文句無くナンバー1と言っていいほどの作品で、多くの観客に観ていただきたい傑作です。
※以下、ネタバレがあります。
監督が滝田洋二郎だって知ったのは、映画を観る当日だったのですが、思えば「病院へ行こう」(1990)や「僕らはみんな生きている」(1992)など、いまだに印象に残っている傑作を撮った監督です。
この2本は非常に好きで、一方は病院を舞台に、もう一方は海外のニッポン人サラリーマンを主人公に、ユーモアたっぷりにプロフェッショナルの仕事の舞台を描いていた作品です。
で、遅ればせながら、その滝田洋二郎が本作の監督だと知って、本作は間違いなく面白いだろうと予感したのです。
実際観始めると、その寸前の予感は見事に当たりました。
もともと、監督が誰か知らずに(気にせずに?)観に行ったものですから、予告編やTVの番宣を観て非常にシリアスな作品を想像していました。
実際、冒頭の納棺師の仕事のシーンでは、凛とした所作と張り詰めた空気を見事に描いていたので、「ああ、この作品は徹底的に美しく凛とした作品なんだろう」と思ってしまったのです。
ところがどっこい(^_^;)
ものの何十秒かで、その考えがもろくも消え去ってしまいます(^_^;) お体を清めている時に「あれ?」となって、交代した山崎努も「あれ?」となって、もう観ている僕はニンマリとしてしまったのです。
年配客が多かった客席は、この場面ではまだ遠慮がちに笑い声が全く聞こえませんでしたが、本木雅弘がDVDのご遺体のモデルをやっているシーンになって、我慢しきれなかったのか、皆が声を出して笑うようになりました。
その後は、面白いシーンはゲラゲラ笑い、しんみりしたシーンには鼻をすする音が劇場内のあちこちから聞こえてきたわけです。
そう、ユーモア溢れる滝田洋二郎監督らしい演出が全編に冴え渡っているのですが、中盤、5分遅刻して遺族から怒られるシーンで、見事な納棺の仕事が終わって逆に遺族から感謝されるシーン、このあたりから、非常に美しい映像と亡き人を送り出す心のこもった納棺師の仕事振りに、胸が打たれるようになりました。
極めつけは、銭湯のおかみさん(杉本哲太演じるおさななじみの母親)の葬儀のシーンで、息子夫婦と孫ひとりに、納棺師夫婦だけのごく少数で納棺の所作を行っているシーン。
このあと、棺が燃やされるのですが、そこに居た銭湯の常連のおじさん(笹野高史)のセリフも含めて、後半最大の泣かせる場面となっていました。
この場面を観ると、家族が亡くなる事の意味合い、残された家族が感じる気持ちなどなど、観る人によってさまざまな事を感じる場面だろうと思います。
僕は笹野高史が、死を「門」だと例え、俺も行くからまた会おうな、と言葉をかけるシーンが印象に残っています。
物語は、最後の最後に主人公が長らく別れた父親と、遺体の姿で対面する場面で終わります。
そこに、反発心しかなった主人公ですが、子供の頃に父親と交わした石ころを父親が握り締めたまま亡くなっていた事に、一気に記憶と想いが噴き出してきて、涙を流しながら納棺の作業を行います。
余計な後日談など入れず、この場面で潔くエンディングを迎えるって点は非常に素晴らしかったと思います。
全編、音楽の使い方が良かったのですが、エンドクレジットを観ると音楽が久石譲でしたね。
或いは、主人公が元オーケストラのチェロ奏者だって事で、クラシックの使われ方も良く、主人公が幾度か、印象的な場面でチェロを弾くシーンが良かったですね。
特に、奥さんが実家に帰って、会社の3人だけでクリスマスを過ごす夜にチェロを弾くシーンは美しかったです。
さて、物語的に一番気になったのは、やはり広末涼子演じる主人公の妻の態度でしょう。
もちろん、けがらわしいと突っぱねるのは違和感もあるかも知れませんが、彼女が夫に今の仕事を辞めて別の「普通」の仕事に就いて欲しいと願うのは、ごくごく普通の反応だろうと思います。
彼女は一旦、実家に戻るのですが、妊娠によって夫の元に戻ってきます。
しかし、それも夫の仕事を認めたわけではなく、やはり夫に「私と子供の事を考えて、誇れる仕事に就いて」って事で、翻意を促していたわけです。
ただ、その時に銭湯のおばさんが亡くなって、たまたま夫の納棺師としての仕事を実際に見ることが出来て、彼女の考えもきっぱりと変わったのだろうと思います。
最後に夫が父親の納棺の作業をしている姿を見る目ってのは、以前とは全く違う愛情に満ちたものとなっていたと思います。
彼女が夫の仕事に最初、理解を示さなかったのは良くわかります。
ただ、それまでの彼の仕事振りと観ているこちらとしては、「実際の仕事振りを見ればすぐに気持ちが変わるだろうに」と思っていました。
それが実際に見る事によって全てが変わったのだろうと思います。
さて、主人公を演じている本木雅弘ですが、非常に素晴らしいですね。
おそらくプロフェッショナルな役柄をさせたら天下一品では無いかな?と思います。
前半で、オーケストラの一員としてチェロを弾くシーンもそうですが、実際に納棺師としての着替え、化粧などの所作を観ていても非常に美しくって無駄の無い動きをしています。
おそらく猛練習をなさったのでしょうが、観ていて不安感を全く感じないどころか、自分が死んだときにはこんな風にされたいなぁ・・・と思わず思ってしまう優しさ、思いやりが感じられました。
かと思えばDVD撮影のシーンのように、見事な肉体をさらけ出して大爆笑のシーンまで演じるのですから、幅広い演技だなぁと感じた次第です。
一方の山崎努も、さすがの貫禄でした。
冒頭の面接のシーンの飄々としたユーモア感覚も素晴らしいし、本木雅弘同様、納棺師の仕事の場面でも美しさと凛と張り詰めた空気を見事に維持していたと思います。
さて、本木の妻役を演じた広末涼子です。
どうも、あまり好きになれない面もある女優ですが、今回は僕は違和感を感じずに、逆に夫目線で彼女に惚れてしまいそうになるくらいの感じを受けました(^_^;)
ま、夫が最初の仕事の後に、肉料理が食べられなくて思わず彼女に抱きついて性的な欲求が高まるってシーン、なかなかエロティックな感じが良く出ていました。
そういえば、あのシーンでは死に直面した主人公が、死して活動を停止した「肉の塊」としての遺体ではなく、血が通って生命活動に満ち溢れた妻の体に触れて、その感覚を深く味わいたいって思ったのでしょう。
また、死に対する恐怖から性に転化して、自分が死にたくない、自分の子孫を残したいって無意識の欲求もあったのかもしれませんね。
人間の死と生、そして性を感じさせるシーンで、ちょっと観ていてエロティックなので焦りましたが、好きなシーンでしたね(^_^;)
死をもって終わりと考えるべきだろうか?ってのは永遠の命題だろうと思います。
しかし、残された人が死者を送り出す儀式を通じて、亡き者への想いを重ねていく姿は、亡き者への敬意と愛情の現われでしょうし、それがひいては残された者が生きている他者を愛し、思いやる気持ちに繋がるのかもしれません。
葬儀を通じて、死者をあの世に送り出す、そして自分もいずれは同じ道を辿って送り出される事になるのだ・・・と、それぞれが感慨深い想いにひたる事になるのでしょう。


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