無料ブログはココログ

最近のトラックバック

2006年9月 3日 (日)

「ジャッカルの日」フレデリック・フォーサイス

【至高の読書体験】

「ジャッカルの日」
フレデリック・フォーサイス(著)篠原慎(訳)/角川書店



 今回紹介するのは、言わずとしれた冒険小説界の重鎮フレデリック・フォーサイスの小説デビュー作「ジャッカルの日」です。

この小説、僕は高校1年の時に読み、同じ時期に読んだ小松左京の「復活の日」と同様、衝撃的なインパクトの残る小説であり、未だに傑作と思っている1冊です。

これで国際謀略モノの冒険小説・サスペンス小説にハマってしまい、同じころにルシアン・ネイハムの「シャドー81」とトマス・ハリスの「ブラック・サンデー」を読んで、どれも傑作ぞろいに興奮して読んだ記憶があります。


 さて、この「ジャッカルの日」は、フランスのドゴール大統領暗殺を依頼された一匹狼の暗殺者「ジャッカル」と、それを追うフランス警察のクロード・ルベルの対決を描くサスペンス溢れる小説です。

基本的に、時代背景だとかは事実そのままであり、ジャーナリスト出身のフォーサイスのリアルな筆致もあいまって、「どこまでがフィクションなのか?」と思わずにはおれない臨場感と緊迫感に溢れます。

特に、前半部分では、ジャッカルの作戦準備段階の単独行動の描写がリアルで面白く、後半部分では、逆にドゴールを追う側のジャッカルを、白紙状態から追い詰めていくルベルの姿が知的サスペンスの興奮を誘い、ラストの二人の対決まで見事に収斂されて行くのです。

時代背景は60年代なのですが、物語の骨子は、今読んでも褪せる事なく輝いていると思います。

その「物語の骨子」とは、まさに小説のサブ・タイトルに使われている「マンハント」の美学にあると思います。

サスペンス小説って、極めつければ「人対人」の物語であり、それは「追う者」「追われる者」の対比から生まれるサスペンスなのだと思います。特に敵対した存在が二つあれば、それは互いに追い詰めるか逃げ切るかの物語になると思います。

フォーサイスの「ジャッカルの日」は、派手なアクション場面もなく、徹底して地味に犯罪計画とそれを追う捜査のみを描き、それだけで徹頭徹尾、緊迫感を失わずに描ききっているのですから、見事のひとことだと思います。

そうした、基本骨子である「マンハント」が徹底して見事に描かれている為、オールタイム・ベストとしていつ読んでも面白さの失われない、サスペンスの真髄が感じられる小説になっていると思います。

 そう言えば、実在の伝説的テロリスト「カルロス」(本名:イリッチ・ラミレス・サンチェス、通称:カルロス・ザ・ジャッカル)というベネズエラ人のテロリストがいて、名前(通称)が同じなので、フォーサイスは彼をイメージしてジャッカルを描いたのかな?と思ったのですが、調べてみるとカルロスの活動時期は70年代であり、ドゴール暗殺計画の時期は微妙にずれているので、そうではないようですね(^_^;)

ちなみにロバート・ラドラムの「暗殺者」(映画化名「ボーン・アイデンティティー」)には、映画版には登場しませんが、この伝説のテロリスト「カルロス」と同名のテロリストが登場します。こちらは、おそらく実在のカルロスをイメージしたものなのでしょうね(^_^;)


 さて、この小説はのちにフレッド・ジンネマン監督によって映画化されるのですが、これがまた傑作中の傑作!なのです(^^)

エドワード・フォックス演じる「ジャッカル」のイメージが精悍で原作どおりであり、映画の中に登場する暗殺者のひとつのイメージを確立したと思います。

監督の力量も素晴らしく、映画全体を通してドキュメンタリー・タッチのリアル志向で演出し、ストーリーも原作をほぼ踏襲するあたり、そしてラスト、「ぼろきれのように壁に叩きつけられるジャッカル」の姿を見事に描いたシーンは、アクション・シーンとしても見事に切れのある映像だったと思います。

ラストあたりは、ほぼセリフ抜きでドキュメンタリー・タッチで通しているのも緊迫感が溢れ、アクション・サスペンス映画として、映画史に残る傑作となっていたと思います。

ま、一方でブルース・ウィリス主演の「ジャッカル」などという、似て非なるクズなアクション映画もありましたが(^_^;)
あんな低脳暗殺者で「ジャッカル」を名乗って欲しくなかったですね(^_^;)


 フォーサイスはその後、「オデッサ・ファイル」「戦争の犬たち」「悪魔の選択」「第四の核」「ネゴシエイター」等々、国際分野からさまざまな題材を扱って、リアルな冒険小説を描いてきたのですが、やはり「ジャッカルの日」を頂点として、それを超える傑作は出ていないと思います。

個人的には、クリストファー・ウォーケン主演の映画にもなった「戦争の犬たち」が、小説・映画ともどもアクション好きには堪らない傑作だと思いますが、それ以外はちょっと、弱いかな・・・と思いますね(^_^;)

 個人的には、この「ジャッカルの日」を超えるフォーサイスの本では、ノン・フィクションになりますが、「ジャッカルの日」の前に書かれた「ビアフラ物語」が素晴らしい読み物であったと思います。

今は絶版状態であり、ほとんど入手不可能なのが残念なのですが、なぜにこれだけの傑作を再販しないのか?と疑問に思うほど、傑作中の傑作です。

アフリカの独立問題を描き、のちの「戦争の犬たち」に引き継がれる傭兵を描くあたり、そしてそれ以上にジャーナリストとしての若き情熱が燃える文章が、この本を傑作に仕立て上げていたと思います。


【関連作品】

2006年8月23日 (水)

「狼の時」ロバート・R・マキャモン

至高の読書体験

「狼の時(上・下)」
ロバート・R・マキャモン(著)角川書店



 今回紹介するロバート・R・マキャモンは、ホラー系作家の中でもスティーブン・キング、ディーン・R・クーンツらと並んで、ベストセラー・リストに何冊も送り込んでいる有名な作家です。

あまり作品を読んでいないのですが、個人的にはこの「狼の時」と「スワン・ソング」は、もうホラー・ファンタジー系(SF系?)の作品の中でも十指に入る傑作ではないかな?と思います。

 さて、「狼の時」なのですが、ネタ的にはタイトルどおりに狼男の話です。
しかも「ナチス・ドイツ」ものだってんだから、読まずにおけるか!って感じですね(^_^;)

人狼とナチの組み合わせ、そしてホラー・ファンタジー系の流れの中に見せ場たっぷりにアクションを配しているあたり、もう娯楽作品の見本のような満艦飾の見事な作品です。
その一方で。人狼が育った過去の物語がバックボーンとして存在し、現在の物語を補強しています。

物語としては、スパイとしてナチス・ドイツの本拠地を目指して、次第に悪夢の世界にはまり込んで行くあたり、魑魅魍魎の存在よりも人間の存在の方が狂気を生むホラー的存在である事に気づかせてくれます。

作家としてホラー系の作品が多く、題材が人狼だって事で、どうしてもホラーのジャンルに入れたくなる作品ですが、実際にはホラー小説・スパイ小説・アクション小説・ファンタジー小説などなどを混ぜた、ジャンル・ミックスな娯楽作品の傑作だと思います。

特に、映像的な表現が上手い作家であり、読んでいてもイメージが眼前に広がるあたりの感覚は、この作品をぜひとも映画化して欲しい!と思わせるに十分だと思います。

残念ながら、角川のホラー文庫で出ている本作は、絶版状態なのか新刊ではほぼ手に入らない状態だと思います。古本屋やオークション等で地道に探してもらうしかありませんので、その点はあしからず(^_^;)


〔関連作品〕

2006年8月10日 (木)

「九マイルは遠すぎる」ハリイ・ケメルマン

至高の読書体験
「九マイルは遠すぎる」
ハリイ・ケメルマン(著)/ハヤカワ文庫



 この本は、ミステリーの短編連作集です。教授のニッキィと主人公の掛け合いで謎を解くのですが、なんと言ってもタイトルの「九マイルは遠すぎる」ってのが、絶妙のネーミングと内容で、これのみでも史上最高の謎解きと言っても過言では無いかも知れません。

どの作品も面白いのですが、やはりタイトルになっている1話目の「九マイルは遠すぎる」ってのが最高で、安楽椅子探偵って言うんでしょうか?推論に推論を重ねるだけで、ズバリと真相解明に至ってしまうあたり、しかも30ページ弱の中でこれだけ濃厚な作業を全く無駄を省いて書いているあたり、贅肉をそぎ落とした90分のサスペンス映画を観ているような小気味よさを感じます(^^)

ページ数が少なくて、史上最高に楽しめるってんだから、買わない手は無いですね(^^)

2006年8月 8日 (火)

「発狂した宇宙」フレドリック・ブラウン

至高の読書体験
「発狂した宇宙」フレドリック・ブラウン



 SF小説は数多くあれど、読んでいて最高に楽しくって、最高にのめり込んだのが、このフレドリック・ブラウンの「発狂した宇宙」なのです。

ブラウンのSF長編と言えば、「火星人ゴーホーム」が良く取り上げられるのですが、僕は圧倒的に「発狂した宇宙」の方が好きなのです。

「火星人ゴーホーム」も、ラストが大好きではあるのですが、どうも、あのユーモア感覚に全身ハマるまでは至らず、どこか短編ネタっぽい一発勝負なアイデアの部分も、「発狂した宇宙」には負けていると感じたのです。

 翻って「発狂した宇宙」ですが、この作品は、いわゆる「多元宇宙もの」=「パラレル・ワールドもの」と呼ばれるジャンルの元祖であり、同時にベスト作品でもあるのです。

パラレル・ワールドのジャンルって、過去から現在まで数多く小説で描かれていますが、とにかく初期のこの作品が全てを語りつくしている為、他のパラレル・ワールドものの作品は読まなくても十分!と言いたくなるくらい、この小説は頂点を極めているのです。

また、映画や小説の世界に「ハマる」って表現がありますが、まさにこの「発狂した宇宙」を読んでいる時は、その世界に没入して、あたかも自分自身が物語を体験しているかのようなリアル感溢れるハラハラ・ドキドキを感じる事が出来たのです。

自分が居た世界と、見た目は全く同じなんだけど、どこかで微妙に違っている。そして、その微妙な違いが、下手をすれば自分の生死に関わる重要事項かも知れない・・・
って訳で、その「自分の世界のルールとは微妙に違った、この世界独特のルール」を手探り状態で知っていく主人公の姿に、読んでいるこちらも、手探りで事実を探り当てようとするドキドキ感覚に溢れているのです。

ラスト近く、「ハックルベリーの無限大」ってサブタイトルのあたりでしょうか?ここで、人工知能のメッキーが語るハックルベリーの無限大の存在感、この説明部分が、まるまる「多元宇宙もの」の全てを言い表した解説となっており、この作品が名作であると断言できる部分なのです。

ラストは、この作家らしいユーモア溢れる終わり方をするのですが、僕もこうありたいなぁ・・・と、ふと思ってしまうハッピー・エンディングですね(^^)


〔関連作品〕

2006年8月 6日 (日)

「楽園の泉」アーサー・C・クラーク

至高の読書体験
「楽園の泉」アーサー・C・クラーク



 今回紹介する「楽園の泉」は、SF界の重鎮、アーサー・C・クラークの1979年の作品です。
かつて文庫化されていたものですが、しばらく絶版状態が続き、最近になって「ハヤカワ名作セレクション」として新装版で復刊され始めた作品の中の一つです。

この作品では、いわゆる「軌道エレベーター」(本作中では「宇宙エレベーター」)を題材にし、しかもその製作のみをテーマにしているあたり、非常に魅力的で感動的な作品となっています。

僕自身は、軌道エレベーターの概念など、さまざまな本で既に出会って知っている存在ではありましたし、それをテーマにした小説に、クラークの「楽園の泉」とチャールズ・シェフィールドの「星ぼしに架ける橋」の2作が筆頭に挙げられているのも知っていました。

しかし、実際に「作品」としての軌道エレベーターに接したのは、実はマンガなのです。
的場健の「まっすぐ天へ 1巻」がそれです。

このマンガを読んで、かつて軌道エレベーターの概念を知って興奮したドキドキ感がよみがえってきました。
現在の所、どうやら1巻のみの未完のマンガのようですが、非常に素晴らしい内容で、SFや宇宙好きの夢を真正面から捉えた良作だと思います。ぜひご一読あれ(^^)

さて、このマンガと出合ってから、どうしても上記2作の小説が読んでみたくなり、絶版状態のチャールズ・シェフィールドの「星ぼしに架ける橋」の古本をネットで取り寄せて読んでみました。

もともと、チャールズ・シェフィールドという作家では、昔読んだ「プロテウスの啓示」が素晴らしく面白かった記憶があり、その後はハードSF連作集の「マッカンドルー航宙記」にハマりまくり、最近出版された「マッカンドルー」シリーズの続編「太陽レンズの彼方へ」も非常に面白くよんだ記憶のある作家です。

その、ハマった作家の作品なので、「星ぼしに架ける橋」も期待して読んだのですが、ストーリー的に軌道エレベーター製作を中心テーマにしているのに、その点の興奮がイマイチ感じられず、あまり関係の無いマッド・サイエンティスト的部分の分かりにくいストーリーが語られていた記憶があります。

その意味で、「まっすぐ天へ」で感じた軌道エレベーターへの夢と興奮、それを再認識したい為に読みたかったのが、クラークの「楽園の泉」になるわけです。

しかも!ちょうどタイミング良い事に、読みたがっていたその矢先の再刊ですので、早速購入してむさぼり読んだわけです。

 内容的には、先にも書いたように、宇宙エレベーター開発と完成までを描く、それのみをテーマにした技術論の輝かしい未来を描くクラークらしい「テクノロジー万歳」(いい意味での)な小説になっています。

クラークの描く楽天的未来観ってのは、読んでいて白けるどころか、逆に胸躍るワクワクした気持ちを持たせてくれて、僕は非常に好きな作家なのです。

今回も、エレベーター開発を中心としたストーリーですが、おそらくスリランカをイメージしたと思われるインド洋の島での神話も絡めつつ、非常に人間っぽさの感じられるドラマになっています。

また、ラストの受ける感覚ってのが、どこかスティーブン・スピルバーグ監督の「A.I.」のラストに受ける感覚に近いものがある、人間の持つ夢とテクノロジーの無限性って感覚を与えてくれて、読後感は非常に素晴らしい作品だと思います。

是非、ご一読あれ(^^)


〔関連作品〕

2006年8月 4日 (金)

「夏のロケット」川端裕人

至高の読書体験
「夏のロケット」
川端裕人(著)文春文庫



 川端裕人の作品では、最近では「川の名前」を読んで感動したのですが、過去に読んだ作品の中では、僕はこの「夏のロケット」が最高に面白くって、最高に好きなのです(^^)

内容は、ひと言で言えば「素人が有人ロケット飛行を実現する話」なのですが、とにかく、そのテーマのみで諸手を挙げて賞賛したくなるくらい魅力的で甘美なテーマなのです。

そして内容同様に素晴らしいのが、そのタイトル「夏のロケット」ですね。

どこか懐かしく甘酸っぱい感覚もよみがえらせる、夏の花火のようなノスタルジックな夢を感じさせるタイトル。
そしてその少年時代の夢を大人になってからも持ち続け、実現してしまう主人公たちの行動に、夢を諦めちまってつまんない大人になった自分が、気恥ずかしさを感じるくらいピュアな精神を感じて、惚れ惚れしてしまうのです。

 この小説に共感したのは、どうやら僕だけではないようで、マンガ家のあさりよしとおが「なつのロケット」ってタイトルのマンガを描いているのです。

これは確か「夏のロケット」にインスパイアされて描かれたんだったかな?(違っていたらすみません(^_^;))

あさりよしとおの「なつのロケット」は、そのものズバリ、小学生たちの夏の夢と希望を描いた作品であり、川端裕人の「夏のロケット」とは違ったアプローチではありますが、そのピュアさと感動って意味では、よりストレートに胸に迫るものがあります。
いやはや、これも傑作なんですよね(^^)「スタンド・バイ・ミー」に匹敵するくらい、魅力的な作品です。

 他にも、素人が勝手にロケットを作っちゃうって話では、浦沢直樹の短編「N・A・S・A」(「初期のURASAWA-浦沢直樹初期短編集」に収録)って傑作もあります。
これは初期の作品で、短編集にしか入っていませんが、僕個人としては、このテーマで長編を一冊描いてもらいたいくらいです。

これもお薦めなので、是非、ご一読あれ(^^)


〔関連作品〕